相続人が病気で期限後申告した場合の『正当な理由』 ―老々相続―

高齢の親が亡くなり、老いた子が財産を相続するという「老々相続」は最近の時代には充分起こりうることです。中には老人になった息子(相続人)が相続税の申告手続きができないような場合もあり得ます。相続人の病気が相続税の期限内申告ができない「正当な理由」と認められるか否かは必ずしも確実ではありません。
国税不服審判所の裁決(令和4年5月11日裁決)にこんなものがありました。

その例とは、 『母の死亡により 開始した相続で、相続人自身も病気だったため相続税の申告書の提出が期限後となってしまいました。税務署はこれに対して無申告加算税をかけてきました。』相続人は次のように反発しました。
相続人は被相続人の死亡時には入院しており、その後も寝たきりで法定期限に申告書を提出するような精神的、肉体的状況ではなかったことから「正当な理由」があると主張しました。

審判所は
(1) 相続人は申告期間において入院または通院状態であり、日常の生活能力は相応に低下していたことは認められる。
(2) 一方相続人は外部の人の接触は禁止されておらず、複数回外出している等、申告期間すべてを通して相続人が申告書を提出できる状態になかったことを、客観的に裏付ける証拠も見当たらない。
としています。

上記以外にもいくつか理由はありますが、最終的には審判所は、『病状は客観的に見て申告書を法定期限までに提出できない状態にあったとか、あるいは税理士など他の者に依頼するなどの意思表示すらできない状態であったとまでは言えない。』として無申告加算税を課さない「正当な理由」があると認められないと判断しました。

このようにケースバイケースで、内容をよく調べてみないと一概に結論は出ないものです。
今後高齢化がさらに進むと、「老々相続」も更に増えてくるので、トラブルを回避するためにも、相続が発生した時にどのように対応するか、あらかじめ取り決めておくことが重要と言えます。

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【公認会計士・税理士】早稲田大学第一商学部卒業。 有限責任監査法人トーマツ退社後、清新監査法人を設立、代表社員として従事(平成15年退任)。 税理士としては、トーマツ退社後、共同事務所経営を経て、串田会計事務所を設立。平成28年に税理士法人化、令和元年に社名を令和税理士法人に変更。現在に至る。 事務所開業以来40余年、個人のお客様及び中小企業から上場企業まで関与。 他に令和アドバイザリー株式会社の代表取締役を兼務。 趣味は、剣道(7段)、長唄、観相、囲碁等多数。