有料老人ホームの入居一時金の返還金について

有料老人ホームに入居している方が亡くなった場合、未償却分の入居一時金が返金されます。
返金された金額がそのまま評価額となるため、相続実務上は難しくありません。
忘れずに相続財産に加算すればよいだけです。

では、この入居一時金で問題となるのはどんな時でしょうか。
それは、相続が発生した時ではなく、契約時に支払う入居一時金の「入居者と入居一時金の支払者」が異なる場合です。
例えば、夫が妻の入居一時金を負担した場合(又はその逆の場合)に、贈与とみなされる場合があります。

ポイントは、相続税法基本通達第21条の3・贈与税の非課税財産「生活費等で通常必要と認められるもの」に該当するかどうかです。生活費等とは、介護が必要となった時の費用も含まれます。社会通念上、通常要する金額の範囲内であれば課税されません。
以下、否認された事例と、認められた事例を紹介します。

否認された事例

国税不服審判所に掲載されている平成23年6月10日裁決の事例では、入居一時金が極めて高額であるとして、贈与税の非課税財産にあたる生活費等とは認められませんでした。
結果的に、入居してから3ヶ月後に支払者が死亡したため、この入居一時金は相続開始前3年以内の贈与として相続財産の加算対象となった事例です。
この時の入居一時金は1億3,370万円で、共用施設には大浴場、フィットネスルーム、ラウンジ、レストラン、プールなどがあり、高級ホテルのような施設でした。
贈与を受けた方もまだ60代と若く、介護を要する状態ではなかったようです。
「国税不服審判所平成23年6月10日裁決」
URL:https://www.kfs.go.jp/service/JP/83/20/index.html

認められた事例

また、国税不服審判所に掲載されている平成22年11月19日裁決の事例では、入居一時金は必要な生活費等の範囲内だったとして、贈与税の非課税財産として認められました。
この時の入居一時金は945万円で、一般的な介護付き老人ホームでした。
また、贈与を受けた方は入居一時金を支払う金銭を有していなかった事、高齢かつ要介護者であり、他人の介護がなければ日常生活を営む事ができない状態だったようです。
「国税不服審判所平成22年11月19日裁決」
URL:https://www.kfs.go.jp/service/JP/81/11/index.html

結果を見ると、富裕層向けのような高級施設は否認される可能性がある事がわかります。
また、本当に施設に入居する必要があったか等も論点となっています。
健康体で、毎日高級リゾートのような施設で過ごすための費用は、通常要する生活費ではないという判断でしょう。
一般的に考えれば、至極まっとうな判断だと思います。

最後になりますが、老人ホーム入居中に相続が発生するケースはよくあると思いますので、上記以外にも論点となりそうな事を一つ書いておきます。
それは、被相続人が住んでいた自宅に、土地の評価を80%減少させる「小規模宅地の特例」が適用できるのかという話です。
結論として、老人ホームに入居していたとしても、一定の要件を満たすと適用が可能です。

もし、上記のような事例に当てはまる方は、初回の相談料は無料となっておりますので、当事務所に一度ご相談頂ければと思います。必要な場合、簡易シュミレーションも行っておりますので、お気軽にお問合せ下さい。

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【公認会計士・税理士】早稲田大学第一商学部卒業。 有限責任監査法人トーマツ退社後、清新監査法人を設立、代表社員として従事(平成15年退任)。 税理士としては、トーマツ退社後、共同事務所経営を経て、串田会計事務所を設立。平成28年に税理士法人化、令和元年に社名を令和税理士法人に変更。現在に至る。 事務所開業以来40余年、個人のお客様及び中小企業から上場企業まで関与。 他に令和アドバイザリー株式会社の代表取締役を兼務。 趣味は、剣道(7段)、長唄、観相、囲碁等多数。