申告漏れは隠蔽か?

〈帳簿記載しなかった工事代金をめぐる国税不服審判所の視点〉

請求人は平成29年に建築工事等を目的として設立された法人です。この法人が税務調査を受け、請け負った工事7件について帳簿に記載されておらず、売り上げとして計上されていなかったことを指摘されました。そのうえ現金で受領した工事代金を総勘定元帳に記帳せず、代表取締役が個人的に費消したことを認める書面の提出を求められたので、調査担当者から示された文案に修正を加えた「申立書」を作成し原処分庁に提出しました。

申立書には、

①本件工事代金については、代表者が現金で受領した際領収書の発行を失念したことから、売上に計上するための原始記録がなく、総勘定元帳に計上できなくなったこと。
②本件工事代金として受領した金員の管理が不十分であったためどのようにしたかわからないが、個人的に費消したと思われても仕方がない旨。
③売上に計上していなかったのは、当社の書類整理がずさんであったことで、悪気がないということを理解していただきたい。

と記述しました。

請求人は法人税などについては修正申告書を提出し、売上計上漏れの処分として社外流出欄に、賞与と記載していました。
以上を受け原処分庁は、これらの行為は故意であり、国税通則法68条〈重加算税〉に該当するとして、賦課決定処分をしました。この処分に対し、請求人は不服審判所に訴えました。

審判所は代表者の申し立てからは過失により工事代金にかかわる領収書を発行しなかった事実は認められるものの、故意に領収書を発行しなかったこと、故意に帳簿に記載しなかったことを裏付ける証拠は見当たらない。と指摘。
また代表者が工事代金を個人的に費消したと取り扱われても仕方のない旨申し立てたことや、工事代金相当額を修正申告書で役員賞与の取扱いをしたことは認められるものの、代表者が自らの所持金と混同するなどにより工事代金を個人的に費消した可能性を否定できず、請求人に帰属する金員と認識したうえで個人的に費消したと認める証拠もない。
そうすると税額等の計算の基礎となる事実について、隠匿あるいは脱漏したとまでは認められない。と判断。原処分の全部を取り消しました。

一見重加算税の対象とみられるような事例ですが、証拠の重要さがよくわかる例でした。

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【公認会計士・税理士】早稲田大学第一商学部卒業。 有限責任監査法人トーマツ退社後、清新監査法人を設立、代表社員として従事(平成15年退任)。 税理士としては、トーマツ退社後、共同事務所経営を経て、串田会計事務所を設立。平成28年に税理士法人化、令和元年に社名を令和税理士法人に変更。現在に至る。 事務所開業以来40余年、個人のお客様及び中小企業から上場企業まで関与。 他に令和アドバイザリー株式会社の代表取締役を兼務。 趣味は、剣道(7段)、長唄、観相、囲碁等多数。