老年の夫が負担する老人ホーム入居一時金は妻への贈与税の対象か?

要介護認定を受けた妻が自宅では介護困難となり、介護付き老人ホームに入居した。個室の広さは19㎡、入居一時金は1200万円、償却期間6年、償却期間中の退去時は未償却残を返還、1ヶ月の生活費用の負担は30万円。妻は資産も生活力もないので、夫が全額負担した。
この場合贈与税はかかるでしょうか?

税務署はこの一時金は家賃の前払いであるとして贈与税をかけてきました。そこで納税者は国税不服審判所に訴えました。
1200万円もの一時金を負担したのですから、原則として贈与税の対象になります。しかし夫婦は互いに扶養の義務があり、この入居金の負担が、「生活に通常必要な費用か」どうかが問題になります。

国税不服審判所の判断は 下記の理由により「日常生活に通常必要な費用」に当たるとして、贈与税はかかりませんでした。

①入居する妻が要介護の状況になり、自宅での介護が困難なこと。
②入居する妻に資力がないこと。
③ホームへの入居は自宅での介護を伴う生活費の負担に代わるものであること。
④入居するホームは介護の目的を超えた贅沢な施設でなく自宅での生活状況と同程度のものであること。

と、このように一般的な施設であれば、入居時の課税関係はないと考えてよいと思います。

ちなみに贈与と認定された例を挙げれば概要こんなものがあります。
鉄筋コンクリート造7階地下1階建て住宅型老人ホームで、入居一時金は1億3000万円超(償却、返還等は省略)、月額利用料40万円超、個室は100㎡超、ラウンジ、レストラン、大浴場、フィットネスルーム、プール、ヘヤーエステ、娯楽室等併設。医療健康管理、文化余暇利用活動等に関する諸サービスあり。妻は介護が必要な状態ではなく、費用負担は1000万円でそれ以外は夫が負担。
これは素人考えから見ても少々やりすぎだと思います。審判所も入居一時金が極めて高額なこと、個室が広いこと、共用施設としてフィトネスルーム、プールが設けられ、ヘヤーエステまであるので、ホーム利用権の取得のための費用は、社会通念上、日常生活に必要な費用であると認めることはできない。その他の理由もあり課税されました。

このように大体常識の範囲で考えてよいと思いますが、「日常生活に必要な費用」という言葉は、抽象的で、どこまでがその範囲か明確なものはありません。くれぐれも独り善がりにならないよう、気を付けてください。

The following two tabs change content below.
【公認会計士・税理士】早稲田大学第一商学部卒業。 有限責任監査法人トーマツ退社後、清新監査法人を設立、代表社員として従事(平成15年退任)。 税理士としては、トーマツ退社後、共同事務所経営を経て、串田会計事務所を設立。平成28年に税理士法人化、令和元年に社名を令和税理士法人に変更。現在に至る。 事務所開業以来40余年、個人のお客様及び中小企業から上場企業まで関与。 他に令和アドバイザリー株式会社の代表取締役を兼務。 趣味は、剣道(7段)、長唄、観相、囲碁等多数。